タンス預金は約60兆円から47兆円へ|金利上昇時代の現金管理【2026年9月】

かつて増え続けていた「タンス預金」(家計や企業が銀行に預けず、自宅の金庫や引き出しで保管している現金)は、近年は減少に転じています。日本銀行の新紙幣(2024年7月発行)の流通分析などをもとにした推計では、タンス預金は2023年初めごろの約60兆円をピークに、2025年7月時点ではおよそ47兆円まで減ったとみられています(日本経済新聞の推計、2025年9月時点)。背景には、長く続いた低金利が終わって預金に利息が付くようになったことや、相次ぐ強盗事件で自宅に大金を置くリスクが意識されたことがあります。
本記事では、タンス預金がどれくらいの規模で、なぜ減り始めたのかを整理したうえで、2026年9月3日時点で各行の公式サイトに掲載されている預金金利をもとに、「手元に置いたままにするか、銀行に預けるか」でどれだけ差が出るのかを具体的な金額で確認します。
目次
そもそもタンス預金はどれくらいあるのか
タンス預金は「自宅にしまわれて動かない現金」のため正確な金額はわかりませんが、日本銀行は紙幣の発行枚数の動きから推計しています。商取引にはあまり使われないはずの高額紙幣(1万円札)が、実際の取引需要を超えて増えている部分を「価値の貯蔵を目的に手元へ滞留した現金=タンス預金」とみなす方法です。1万円札の発行残高は2004年末の約70億枚から2024年末には約115億枚へと大きく増えており、日銀はこうした分析から、紙幣発行残高(2024年度で金額ベース約118兆円)の半分程度が非取引需要とみられ、タンス預金が約60兆円規模にのぼる可能性を示しています。
もともとタンス預金が膨らんだのは、①銀行に預けても利息がほとんど付かなかったこと、②マイナンバー制度の導入や相続税の基礎控除縮小(2015年)で資産を把握されにくい形で持っておきたいという心理が一部にあったこと、などが理由とされてきました。本記事のもとになった第一生命経済研究所のレポート(2017年3月公表)も、当時のこうした増加傾向を取り上げたものです。
なぜ減り始めたのか
潮目が変わったのは金利です。日本銀行は2024年3月にマイナス金利政策を解除し、その後も段階的に利上げを続けています。2026年6月16日の金融政策決定会合では、政策金利を「0.75%程度」から「1.0%程度」へ引き上げました。これは1995年以来およそ31年ぶりの高い水準です。続く2026年7月31日の会合では、この1.0%程度を据え置くことが決まりました。
その後も金利の地合いは変わっていません。国債市場では長期金利(新発10年物国債の利回り)が2026年9月1日に約30年ぶりとなる3.0%台へ乗せ、翌2日には一時3.015%まで上昇しました。次回の金融政策決定会合は2026年9月17日・18日で、結果は18日に公表されます。追加利上げを検討していると報じられていますが、日本銀行はこの時点で何も決定していません。最新の方針は必ず日本銀行の公表資料でご確認ください。
ここで押さえておきたいのは、政策金利が据え置かれた月でも、預金金利の引き上げはそこで止まらないという点です。利上げは各行の金利改定に時間差で反映されるため、2026年の夏から秋にかけても預金金利を引き上げる銀行が続いています。
- 三菱UFJ・三井住友・みずほの3メガバンク:2026年8月3日から円普通預金金利を年0.300%→年0.400%へ引き上げ。三菱UFJ銀行の公式金利ページでは、2026年9月3日現在も普通預金 年0.400%・スーパー定期1年もの 年0.500%(いずれも税引前)と掲載されています。
- あおぞら銀行:ネット向けのBANK普通預金は残高100万円まで年1.0%・100万円超は年0.65%。さらに2026年9月1日から円定期預金「BANK The 定期」の利率を一部引き上げ、50万円以上の預け入れで1年もの 年1.4%・5年もの 年1.7%となっています(いずれも税引前・2026年9月1日現在)。
- SBI新生銀行:インターネット限定の「パワーダイレクト円定期預金30」(30万円以上)は1年もの 年1.200%・5年もの 年1.950%、証券口座と連携するSBIハイパー預金は年0.550%(いずれも税引前・2026年9月3日現在)。
数年前まで普通預金が年0.001%という超低水準だったことを思えば、いずれも大きな変化です。「預ければ利息が付く」状況が戻ったことに加え、自宅保管の盗難リスクが意識されたことも重なり、タンス預金は減少へ向かったとみられます。金利は時点により変わりますので、実際の数値は必ず各行公式サイトでご確認ください。
100万円を1年間置いた場合、どれだけ差がつくか
「金利が戻ったとはいえ大した額にはならない」と感じる方もいるかもしれません。実際の金額を確認しておきましょう。次は100万円を1年間預けた場合に受け取れる利息(税引後の概算)です。利息には20.315%(国税15.315%・地方税5%)が源泉分離課税として差し引かれます。

タンス預金は当然ながら1年置いても0円です。一方、3メガバンクの普通預金(年0.400%)なら税引後でおよそ3,187円、あおぞら銀行のBANK口座の普通預金(100万円まで年1.0%)ならおよそ7,968円になります。定期預金に回せば差はさらに開き、SBI新生銀行のパワーダイレクト円定期預金(1年もの 年1.200%)でおよそ9,562円、あおぞら銀行のBANK The 定期(50万円以上・1年もの 年1.4%)でおよそ11,155円です。
1年で数千円から1万円強と考えるか、何もしなくても確実に増える分と考えるかは人それぞれですが、盗難や火災のリスクを負ってまで自宅に置いておく理由にはなりにくい水準になってきた、とはいえます。なお上の金額は年率から単純計算した概算で、実際には日割り計算や円未満の切り捨てにより数円程度異なります。
タンス預金のデメリットを整理する
自宅で現金を持つこと自体は本人の自由ですが、「銀行はどうせ利息が付かないし、引き出すと手数料も取られる」という思い込みからタンス預金を増やしてしまうのは、いくつかの点で損になりがちです。
- 利息がいっさい付かない:金利が戻ってきた今、普通預金でも定期預金でも、預けておけば着実に利息が付きます。タンス預金は何年置いても増えません。
- 物価が上がると実質的に目減りする:現金の額面は変わりませんが、モノの値段が上がれば同じ金額で買えるものは減ります。利息が付かない現金は、物価上昇局面では実質的な価値が下がりやすい資産です。
- 盗難・火災・紛失に保証がない:銀行預金は不正に引き出された場合の補償制度がありますが、自宅の現金が盗まれても誰も補償してくれません。耐火金庫でも、長時間の高温には対応できないものが大半です。
- 「手数料はどこでも取られる」は誤解:SBI新生銀行やauじぶん銀行などのネット銀行・新しい銀行は、ATM手数料や振込手数料を一定回数まで無料にしているケースが多くあります。今使っている銀行で手数料が取られるからといって、すべての銀行が同じとは限りません。
タンス預金と銀行預金の違い
| 比較の観点 | タンス預金(自宅保管) | 銀行預金 |
|---|---|---|
| 利息 | 付かない(0円) | 普通預金・定期預金で利息が付く(金利上昇で改善) |
| 盗難・火災時の保証 | なし(自己責任) | 不正引き出しの補償制度あり/破綻時もペイオフで保護 |
| 引き出し・送金の手数料 | かからないが手元にある分だけ | ネット銀行なら一定回数無料のところも多い |
| 災害時の対応 | 持ち出せた分のみ | 本人確認による特例払い戻し等の対応実績あり |
| 物価上昇への耐性 | 利息が付かず実質的に目減りしやすい | 利息の分だけ目減りを緩和できる |
金利のある時代の「預け先」の考え方
すぐに使わない余裕資金は、普通預金に置いたままにせず、定期預金やキャンペーン金利を使うとさらに差がつきます。たとえばSBI新生銀行は、2026年9月10日まで「金利年1.25%相当のトリプル円定期キャンペーン」を実施しています。これは複数の条件を満たした場合の上乗せ後の表記であり、店頭に常時掲示されている金利とは性質が異なります。キャンペーン金利を検討するときは、対象資金・最低預入額・適用期間・上乗せの条件を必ず公式サイトで確認してください。
また、定期預金は満期前に解約すると中途解約利率が適用され、当初の金利では利息を受け取れません。たとえばあおぞら銀行のBANK The 定期の中途解約利率は年0.1%(2026年9月1日現在)で、1年もの 年1.4%の10分の1以下です。使う時期が読めない資金まで長期の定期に入れないのが基本になります。すでに預け入れ済みの定期預金には新しい金利は適用されず、満期まで当初の約定利率のままである点にも注意してください。
銀行預金がタンス預金より安心なのは、預金保険制度(ペイオフ)があるためです。万一銀行が破綻しても、1金融機関ごとに預金者1人あたり元本1,000万円までと、その利息等が保護されます(決済用預金は全額保護)。まとまった資金がある場合は、1行に集中させず複数の銀行に分けておけば、1,000万円の枠を超える部分もカバーしやすくなります。タンス預金にはこうした制度的な保護がありません。
なお、証券口座と併用する予定があるなら、SBI新生銀行の「SBIハイパー預金」のように普通預金でありながら金利が優遇される仕組み(2026年9月3日現在で年0.550%・税引前)もあります。元本保証・預金保険の対象である点は通常の円預金と同じです。安全に少しでも有利な金利を狙うなら、ネット銀行の定期預金も含めて比較するとよいでしょう。
預金のほかに「元本割れしない」置き場所はあるか
タンス預金から移す先として、定期預金と並んで検討しやすいのが個人向け国債です。国が発行し、1万円から購入でき、満期まで持てば額面どおりの金額が戻ります。金利上昇局面では、こちらの利率も上がっています。財務省が2026年9月2日に公表した9月募集分(募集期間は2026年9月3日〜30日、発行日は10月15日)の適用利率は次のとおりです。
| タイプ | 適用利率(税引前) | 税引後 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 変動10年(第198回債) | 年1.95%(初回の利子) | 年1.5538575% | 半年ごとに利率を見直す |
| 固定5年(第186回債) | 年2.24% | 年1.7849440% | 満期まで利率が変わらない |
| 固定3年(第196回債) | 年1.96% | 年1.5618260% | 満期まで利率が変わらない |
いずれも銀行の1年もの定期預金を上回る水準です。ただし、発行から1年間は原則として中途換金できません。1年経過後はいつでも換金できますが、その際は直前2回分の各利子(税引前)相当額×0.79685が差し引かれます(購入後に保有者が亡くなった場合や大規模な自然災害で被害を受けた場合は例外的に換金できます)。数か月以内に使う予定のあるお金には向かないため、預金と役割を分けて考えてください。
また、同じ「国債」でも新窓販国債は途中で売却すると市場価格次第で元本割れすることがあります。個人向け国債と混同して「国債はすべて元本保証」と考えないよう注意が必要です。詳細な条件は財務省の個人向け国債のページでご確認ください。
目的別に「手元」と「預金」を分ける
すべてを預金に移せばよいというものでもありません。用途で分けて考えると整理しやすくなります。
- 日常の生活費・緊急時の現金:停電や通信障害でATM・キャッシュレス決済が使えない状況に備え、数万円程度を手元に置いておく考え方は合理的です。
- 数か月〜1年以内に使う予定の資金:普通預金や短期の定期預金へ。金利より「必要なときにすぐ引き出せること」を優先します。
- 当面使う予定のない余裕資金:1年もの以上の定期預金や個人向け国債へ。預金は1金融機関1,000万円の保護枠を意識して分散します。
よくある質問(FAQ)
タンス預金は違法ですか?
自分のお金を自宅で保管すること自体は違法ではありません。ただし、相続や贈与で得たお金を申告せずに隠す目的で保管すると、税務上の問題になることがあります。
金利が上がったら、タンス預金を銀行に戻したほうがよいですか?
すぐに使う予定のない余裕資金であれば、利息が付く普通預金・定期預金に置くほうが、利息の分だけ有利です。日常的に必要な現金だけ手元に残し、残りは安全性と利便性で選んだ銀行に分散して預けるのが現実的です。
災害や停電に備えて現金は手元に必要ではありませんか?
停電や通信障害の際にATM・キャッシュレス決済が使えなくなることはあるため、数万円程度の現金を手元に置いておく意味はあります。一方、過去の災害では、通帳や印鑑を持ち出せなくても本人確認により預金の特例的な払い戻しに応じた例があります。「当座をしのぐ現金」と「まとまった資産」は分けて考えるのが現実的です。
1,000万円を超える預金はどうすればよいですか?
ペイオフで保護されるのは1金融機関あたり元本1,000万円+利息までです。これを超える資金は、複数の金融機関に分けて預けると、各行で1,000万円までの保護を受けられます。
まとまった現金を一度に入金すると税務署に見られますか?
入金そのものが直ちに課税されるわけではありません。ただし、相続財産や贈与された資金であれば、入金の有無にかかわらず申告が必要です。出どころを説明できる資料(通帳・売買契約書など)を残しておくと安心です。
銀行預金の金利はかつてより高くなったとはいえ、まだ十分に高い水準とは言えません。それでも、利息が1円も付かず、盗難・火災の保証もないタンス預金に大金を寝かせておくのは、機会損失とリスクの両面で不利です。手元に必要な現金だけを残し、残りは複数の銀行や個人向け国債を活用して、資産の有効活用と正しい防衛を心がけましょう。
参考:第一生命経済研究所の金融レポート(2017年3月公表)はこちら
















