家族名義の定期預金が相続財産に戻されるかどうかは、通帳の名義でなく、そのお金を実際に支配していたのが誰かで決まります。国税庁は、被相続人が資金を出して管理・運用していた預金は、子や孫の名義でも相続税の対象になると示しています。
国税不服審判所の公表裁決では、ペイオフ対策のつもりで子ども名義に分けた定期預金11口・約1億1,100万円が相続財産と判断され、重加算税も課されました(2026年10月時点の法令・公表資料で確認)。
名義預金とは=名義人と本当の持ち主が一致しない預金
名義預金は法律用語ではありません。実務では、口座の名義は配偶者・子・孫でも、実質的には資金を出した人(多くは親や祖父母)の財産と見なされる預金を指します。
国税庁の「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集」は、父の金庫から見つかった子名義の定期預金証書を例に挙げています。父の収入から預け入れ、父が管理・運用していた場合は、名義にかかわらず父の相続財産として申告に含める必要があるという説明です(国税庁 誤りやすい事例⑥ 被相続人以外の名義の財産(預貯金))。
名義預金は、贈与が成立していない預金です。贈与が成立していれば、そのお金は名義人の財産で、相続財産には入りません。
贈与が成立していなければ、何年前に預けたものでも、少額でも、亡くなった人の財産のままです。名義預金かどうかの判定は、贈与があったと認められるかの判定と同じです。
税務署が見る5つの判断要素は名義より支配の実態
裁決や判決は、家族名義の預金の帰属を名義だけで判断せず、事情を総合的に見て決めるとしています。税務大学校が公表した裁決評釈では、東京地裁平成20年10月17日判決の基準として次の5点が挙げられています(国税庁 税大ジャーナル29号 裁決評釈(家族名義預金の帰属))。
| 判断要素 | 名義人の財産と認められやすい状態 | 名義預金と判断されやすい状態 |
|---|---|---|
| ①原資を出したのは誰か | 名義人自身の収入・貯蓄から預け入れた | 親や祖父母の口座から移された |
| ②通帳・証書・印鑑・キャッシュカードの管理 | 名義人が手元に持ち、暗証番号も名義人が決めている | 資金を出した人の金庫や引き出しに保管され、印鑑も同じものを共用 |
| ③利息など利益の帰属・使用状況 | 名義人が満期金や利息を自分の判断で使っている | 満期のたびに資金を出した人が継続手続きをし、名義人は口座の存在を知らない |
| ④名義人と管理者の関係 | 成人した子が自分で口座を開設・管理 | 幼い孫や、遠方に住んでいて取引の実態がない家族の名義 |
| ⑤その名義になった経緯 | 贈与契約書があり、贈与税の申告も残っている | ペイオフ対策・相続税対策として親が名義を分けた |
定期預金で決め手になりやすいのは②と③です。普通預金なら名義人がカードで日常的に引き出す実態を示しやすい一方、定期預金は証書や通帳の保管者、満期の継続手続きをした人が金融機関の記録に残ります。
冒頭の裁決でも、銀行の渉外担当者の証言から、継続手続きも住所変更も相続開始日まで被相続人か、その指示を受けた妻が行っていたと認定されました。子どもが自由に処分できる状態にはなかったという判断です。
裁決で分かれ目になったのはお金の渡し方
平成27年10月2日の裁決事例では、同じ被相続人が、実際に贈与したケースと名義だけを使ったケースの両方を持っていました。
子に住宅資金を贈与したときは、子が普段使う普通預金口座へ直接振り込み、子が自由に使える状態にしていました。争いになった定期預金11口は、通帳と印鑑を相続開始日まで被相続人が保管していました。審判所はこの渡し方の違いを根拠に、定期預金については贈与の事実を認めませんでした。
贈与を成立させる行動そのものは難しくありません。受け取る側が自分の意思で使える口座に入れ、通帳・カード・印鑑を本人が管理することで、①~③は名義人側に傾きます。
贈与のつもりでも、まだ若いから、無駄遣いが心配だからと親が通帳を預かり続けると、法律上は贈与が履行されていない状態が続きます。
年110万円以下でも名義預金の問題は消えない
毎年110万円以内なら贈与税がかからないので、子ども名義の口座に積み立てれば非課税で移せる、という説明を見かけます。この説明には前提が2つ抜けています。
1つ目は、110万円の基礎控除が贈与の成立した財産に対する控除だという点です(国税庁 タックスアンサー No.4408 贈与税の計算と税率)。子が口座の存在を知らず、通帳も親が持っているなら、贈与はそもそも成立していません。
この場合は110万円以下かどうかを問う段階にありません。10年かけて1,100万円を積んでも、名義預金と判断されれば全額が相続財産です。
2つ目は、贈与が成立していても、相続開始前の一定期間内の贈与は相続財産に加算される点です。2024年1月1日以後の贈与から加算対象期間が3年から7年に延び、110万円以下で贈与税がかからなかった分も加算されます(国税庁 タックスアンサー No.4161 贈与財産の加算と税額控除)。相続開始日ごとの期間は下の表のとおりです。
| 相続開始日 | 加算される暦年贈与の期間 | 備考 |
|---|---|---|
| 2026年12月31日まで | 相続開始前3年以内 | 従来どおり |
| 2027年1月1日~2030年12月31日 | 2024年1月1日から死亡日まで | 移行期間。2027年1月2日以後の相続開始では、3年超の部分は合計100万円まで加算されない |
| 2031年1月1日以後 | 相続開始前7年以内 | 3年超4年分は合計100万円まで加算されない |
加算期間の区切りがあるのは、贈与が成立した財産だけです。名義預金は贈与ではないため、7年より前、たとえば30年前に預けたものでも相続財産として扱われます。
贈与税の時効は6年だから古い名義預金は問題にならない、という説明も同じ理由で成り立ちません。贈与が無かった預金には、贈与税の時効が関係しないためです。
暦年課税と相続時精算課税は加算のルールが違う
贈与税の課税方法には、暦年課税と相続時精算課税の2つがあります。どちらも、名義人本人が受け取って管理していることが前提です。
相続時精算課税は、原則として60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与で選べます。2024年1月1日以後の贈与から、年110万円の基礎控除が新たに設けられました(国税庁 タックスアンサー No.4103 相続時精算課税の選択)。
| 比較の観点 | 暦年課税 | 相続時精算課税 |
|---|---|---|
| 年間の基礎控除 | 受贈者1人あたり110万円 | 特定贈与者ごとに110万円(2024年1月1日以後の贈与) |
| 基礎控除を超えた部分 | 累進税率で贈与税 | 累計2,500万円まで特別控除、超えた部分は一律20% |
| 相続時の加算 | 相続開始前の加算対象期間(最長7年)の贈与を加算 | 基礎控除を引いた残額を期間の制限なく加算 |
| 手続き | 110万円以下なら申告不要 | 初回に選択届出書を提出。一度選ぶと、その贈与者からは暦年課税に戻れない |
相続時精算課税の110万円以内の贈与は、相続時に加算されません。一方で届出が必要になり、その贈与者からの贈与には以後ずっと精算課税が適用されます。
どちらの制度を選んでも、通帳と印鑑を贈与者が持ち続ければ贈与の実態は認められにくく、名義預金の判断基準はそのまま残ります。
ペイオフ対策で家族名義に分けると預金保険でも不利になる
1金融機関あたり元本1,000万円という預金保険の保護枠を意識して、家族の名義に分けて預ける方法があります。冒頭の裁決の被相続人も、ペイオフ対策を念頭に子どもの名義で定期預金を預けていました。
名義を分けても、資金の出し手と管理者が同じなら税務上は1人の財産です。預金保険機構も、名寄せでは夫婦や親子を別の預金者として扱う一方、家族の名義を借用している預金(借名預金)等は保護の対象外と明記しています(預金保険機構 名寄せに際しての預金者の扱い)。
家族名義に分けた預金は、相続税で不利になるうえ、預金保険でも保護されないおそれがあります。保護枠を広げる方法は、預金保険制度(ペイオフ)の保護範囲と分散の考え方で扱っているとおり、自分の名義のまま金融機関を分ける形です。
生活費・教育費として渡したお金を定期預金にする場合も注意が要ります。国税庁は、扶養義務者から生活費や教育費に充てるために受け取った財産を非課税としつつ、預金や株式・不動産の購入資金に充てた場合は贈与税がかかると明記しています(国税庁 タックスアンサー No.4405 贈与税がかからない場合)。
孫の学費のためにと孫名義の定期預金へ入れたお金は、非課税の教育費でなく、通常の贈与か名義預金として扱われます。教育資金をまとめて非課税で渡す制度もありましたが、教育資金の一括贈与非課税制度は2026年3月で終了しました。
家族名義の定期預金を整える3つの方法
すでに家族名義の定期預金がある場合、取れる行動は次の3つです。どれも実態と名義を一致させるための整理で、税額が有利になる方法はありません。
1. 贈与として成立させる
名義人本人に口座の存在を伝え、通帳・証書・印鑑・キャッシュカードを渡し、暗証番号も本人が決めます。年110万円を超える年は、名義人が翌年2月1日~3月15日に贈与税の申告・納税をします。
裁決評釈も、書面によらない贈与は外形上分かりにくいため、贈与税の申告書等の保存が大切だと指摘しています。贈与契約書を毎回作り、振込で記録を残せば、①~⑤の要素が名義人側にそろいます。
2. 自分の財産として戻す
贈与するつもりがなかった場合や、幼い孫など名義人が管理できない場合は、自分名義の口座に戻して自分の財産として管理します。
もともと贈与が無かった預金を元の持ち主に戻すので、名義人からの贈与にはなりません。相続時には自分の財産として申告するだけで、説明に困る預金がなくなります。
3. 自分名義のまま目的別に分ける
教育費や生活費の援助は、必要な都度直接充てる形で渡せば非課税です。将来渡す予定の資金を先にためたいなら、自分名義のまま金融機関や満期を分けて預ける形が、税務上も預金保険上も無理がありません。
満期を分ける預け方は定期預金のラダリング(満期を1年ずつ分ける預け方)で解説しています。
相続が起きたあとは、名義預金と認定された定期預金が遺産分割の対象にも戻ります。遺産分割協議書に「上記以外の全財産を取得する」といった包括条項があっても、裁決は、個別に記載のない高額な財産は特別な事情がない限り含まれないと解釈しました。
名義人が自分のものとして使ってしまうと、分割協議のやり直しが必要になることもあります。相続で口座が凍結されたときの払戻し制度とあわせて、定期預金の扱いは相続人全員で確かめておくほうが安全です。
名義預金が見つかると申告漏れと重加算税の対象になる
名義預金は、亡くなった人の名義の口座だけを申告した場合に、税務調査で見つかりやすい財産です。金融機関には過去の取引記録が残り、被相続人の口座から家族名義の口座への資金移動は追跡できます。
見つかれば相続税の追徴に加えて過少申告加算税がかかり、隠していたと判断されれば重加算税(35%)の対象になります。冒頭の裁決では、妻が名義預金を相続財産と認識しながら税理士に告げず、調査でも根拠なく生前贈与だと説明し続けたことが隠ぺいに当たると判断されました。
相続税には3,000万円+600万円×法定相続人の数の基礎控除があり(国税庁 タックスアンサー No.4152 相続税の計算)、名義預金を含めても控除内に収まる家庭では相続税は生じません。
それでも整理しておく意味はあります。誰の預金かで相続人が争う余地がなくなり、預金保険の保護枠と利息の受取人もはっきりします。
家族名義の定期預金についてよくある疑問
Q. 専業主婦の妻名義の定期預金に、夫の給与から毎月移しています。これも名義預金ですか?
A. 原資が夫の収入で夫が管理しているなら、夫の相続時に夫の財産と判断される可能性が高い預金です。夫婦間でも贈与は成立しますが、年110万円を超えれば贈与税の対象です。妻自身の収入や結婚前の財産を原資にした分は、口座を分けておくと区別しやすくなります。
Q. 孫名義の定期預金を作ったものの、孫はまだ小学生です。贈与を成立させる方法はありますか?
A. 未成年者への贈与は、親権者(孫の親)が代わって受諾すれば成立します。贈与契約書に親権者が署名し、通帳・印鑑は親権者が孫のために管理して、贈与者の祖父母の手元には置かない形にします。
Q. 20年前に親が私名義で作った定期預金があります。もう時効ではないのですか?
A. 贈与が成立していなければ、その預金は今も親の財産で、時効の問題は生じません。20年前に通帳・印鑑を受け取り自分で管理してきた実態があれば、当時贈与が履行されたと考えられ、その贈与税の申告義務は時効で消えています。
Q. 名義預金を親の口座に戻すと、私から親への贈与になりませんか?
A. なりません。名義預金は最初から親の財産なので、親の口座へ戻すのは名義を実態に合わせる行為です。戻す際は名義預金の解消と分かるよう、振込の記録と経緯のメモを残しておくと後の説明が楽になります。
Q. 相続時精算課税を選べば、子ども名義の定期預金は名義預金と見られなくなりますか?
A. 制度の選択だけでは変わりません。精算課税は成立した贈与に適用される仕組みで、通帳や印鑑を親が持ち続ければ贈与の実態は認められにくいままです。選ぶ場合は、受け取った子が自分で管理する形をあわせて整えます。
本記事は2026年10月時点の国税庁タックスアンサー・誤りやすい事例集・税務大学校の裁決評釈、預金保険機構の公表資料に基づいています。個別の事案の判断は事実関係で異なるため、金額が大きい場合や判断に迷う場合は、税務署または税理士へ相談してください。