家族名義の定期預金が相続財産に戻されるかどうかは、通帳の名義ではなく「そのお金を実際に支配していたのは誰か」で決まります。国税庁は、被相続人が資金を出し、管理・運用もしていた預金は、子や孫の名義でも相続税の課税対象になると明示しています。国税不服審判所の公表裁決では、ペイオフ対策のつもりで子ども名義に分けた定期預金11口・約1億1,100万円が相続財産と判断され、重加算税まで課されました。この記事では、名義預金と判断される基準を国税庁の公表資料と裁決から整理し、家族名義で預けている定期預金をどう整えればよいかを、預金者の立場でまとめます(2026年9月9日時点の法令・公表資料に基づく)。
- 税務署が見る5つの判断要素と、定期預金で特に弱くなるポイント
- 「年110万円ずつ子ども名義に積んでいるから大丈夫」が通用しない理由
- 相続前7年の贈与加算と、名義預金には期限がないことの違い
目次
名義預金とは=名義人と本当の持ち主が一致しない預金
名義預金という言葉は法律用語ではありません。実務では、口座の名義は配偶者・子・孫だが、実質的には資金を出した人(多くは親や祖父母)の財産と見なされる預金を指します。国税庁の「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集」は、父の金庫から見つかった子名義の定期預金証書について、「父の収入から預け入れ、父が管理・運用していた」場合は、名義にかかわらず父の相続財産として申告に含める必要があると説明しています(国税庁 誤りやすい事例⑥ 被相続人以外の名義の財産(預貯金))。
ここで大切なのは、名義預金は「贈与が成立していない」預金だという点です。贈与が成立していれば、そのお金は名義人の財産であり、相続財産ではありません。逆に、贈与が成立していなければ、何年前に預けたものでも、いくら少額でも、亡くなった人の財産のままです。名義預金の判定は、結局のところ「贈与があったと認められるか」の判定と同じです。
税務署が見る5つの判断要素——名義より「支配」を見る
裁決や判決は、家族名義の預金の帰属を「名義人が誰かという形式的事実のみで判断するのではなく、総合的に勘案する」としています。国税庁の税務大学校が公表している裁決評釈では、東京地裁平成20年10月17日判決の基準として次の5点が挙げられています(国税庁 税大ジャーナル29号 裁決評釈(家族名義預金の帰属))。
| 判断要素 | 名義人の財産と認められやすい状態 | 名義預金と判断されやすい状態 |
|---|---|---|
| ①原資を出したのは誰か | 名義人自身の収入・貯蓄から預け入れた | 親や祖父母の口座から移された |
| ②通帳・証書・印鑑・キャッシュカードの管理 | 名義人が手元に持ち、暗証番号も名義人が決めている | 資金を出した人の金庫や引き出しに保管され、印鑑も同じものを共用 |
| ③利息など利益の帰属・使用状況 | 名義人が満期金や利息を自分の判断で使っている | 満期のたびに資金を出した人が継続手続きをし、名義人は口座の存在を知らない |
| ④名義人と管理者の関係 | 成人した子が自分で口座を開設・管理 | 幼い孫や、遠方に住んでいて取引の実態がない家族の名義 |
| ⑤その名義になった経緯 | 贈与契約書があり、贈与税の申告も残っている | 「ペイオフ対策」「相続税対策」として親が勝手に名義を分けた |
5つのうち、定期預金で決定的に効きやすいのが②と③です。普通預金なら名義人が日常的にカードで引き出す実態を示しやすいのに対し、定期預金は「証書や通帳を誰が持っているか」「満期の継続手続きを誰がしたか」が金融機関の記録に残ります。冒頭の裁決でも、銀行の渉外担当者の証言から「継続手続きも住所変更も、相続開始日まで被相続人か、その指示を受けた妻が行っていた」と認定され、子どもが自由に処分できる状態ではなかったと判断されました。
裁決が示した「贈与ではない」の分かれ目——お金を渡す方法が違っていた
平成27年10月2日の裁決事例で興味深いのは、同じ被相続人が本当に贈与したケースと、名義だけ使ったケースの両方を持っていた点です。子に住宅資金を贈与したときは、子が普段使っている普通預金口座に直接振り込み、子が自由に使える状態にしていました。一方、争いになった定期預金11口は、通帳と印鑑を相続開始日まで被相続人が一貫して保管していました。審判所はこの「渡し方の違い」を根拠に、定期預金については贈与の事実が認められないと結論づけています。
つまり、贈与を成立させる行動は難しいものではありません。受け取る側が自分の意思で使える口座に入れ、通帳・カード・印鑑を本人が管理する——それだけで①〜③は名義人側に傾きます。逆に、贈与のつもりでも「まだ若いから」「無駄遣いされたら困るから」と親が通帳を預かり続けると、法律上は贈与が履行されていない状態が続くことになります。
「年110万円以下だから申告不要で問題ない」は2つの意味で誤り
検索上位の記事には「毎年110万円以内なら贈与税がかからないので、子ども名義の口座に積み立てれば非課税で移せる」と書かれたものが多く見られます。この説明は前提が抜けています。
第一に、110万円の基礎控除は「贈与が成立した財産」に対する控除です(国税庁 タックスアンサー No.4408 贈与税の計算と税率)。子が口座の存在を知らず、通帳も親が持っているなら、そもそも贈与が成立していないので、110万円以下かどうかは問題になりません。10年かけて1,100万円を積んでも、名義預金なら全額が相続財産です。
第二に、贈与が成立していても、相続開始前の一定期間内の贈与は相続財産に加算されます。2024年1月1日以後の贈与から加算対象期間が3年から7年に延び、110万円以下で贈与税がかからなかった分も加算対象です(国税庁 タックスアンサー No.4161 贈与財産の加算と税額控除)。相続開始日に応じた期間は次のとおりです。
| 相続開始日 | 加算される暦年贈与の期間 | 備考 |
|---|---|---|
| 2026年12月31日まで | 相続開始前3年以内 | 従来どおり |
| 2027年1月1日〜2030年12月31日 | 2024年1月1日から死亡日まで | 移行期間。3年超の部分は合計100万円まで加算されない |
| 2031年1月1日以後 | 相続開始前7年以内 | 3年超4年分は合計100万円まで加算されない |
ここで押さえておきたいのは、加算のルールに期限があるのは「贈与が成立した財産」だけだということです。名義預金は贈与ではないので、7年どころか30年前に預けたものでも相続財産として扱われます。「贈与税の時効は6年だから、古い名義預金はもう問題にならない」という説明も同じ理由で成り立ちません。贈与が無かったものに、贈与税の時効は関係がないからです。
定期預金サイトとしての注意点——ペイオフ対策で名義を分けるのは逆効果
当サイトの読者に多いのが、1金融機関あたり1,000万円という預金保険の保護枠を意識して、家族の名義に分けて預ける方法です。冒頭の裁決の被相続人も、まさに「ペイオフ対策を念頭に置き」子どもの名義を使って定期預金を預け入れていました。しかし、名義を分けても資金の出し手と管理者が同じであれば、税務上は1人の財産です。しかも預金保険機構は、名寄せの原則として夫婦や親子を別々の預金者と扱う一方で、「家族の名義を借用している預金(借名預金)等は、保護の対象外」と明記しています(預金保険機構 名寄せに際しての預金者の扱い)。つまり家族名義に分けた預金は、相続税の面で不利になるだけでなく、肝心の預金保険でも保護されないおそれがあるという、二重に割に合わない方法です。保護枠を広げたいなら、預金保険制度(ペイオフ)の解説記事で整理しているとおり、自分の名義のまま金融機関を分けるのが正攻法です。
もう一つ、生活費・教育費として渡したお金を定期預金にする行為にも注意が要ります。国税庁は、扶養義務者から生活費や教育費に充てるために受け取った財産は非課税としつつ、「それを預金したり株式や不動産などの買入資金に充てている場合には贈与税がかかる」と明記しています(国税庁 タックスアンサー No.4405 贈与税がかからない場合)。「孫の学費のために」と孫名義の定期預金に入れておく行為は、非課税の生活費・教育費ではなく、通常の贈与(または名義預金)として扱われます。教育資金をまとめて非課税で渡す制度は別に存在しましたが、教育資金の一括贈与非課税制度は2026年3月で終了しています。
家族名義の定期預金をどう整えるか——3つの選択肢
すでに家族名義の定期預金がある場合、読者が取れる行動は次の3つに整理できます。どれを選んでも税額が有利になる「裏技」はなく、実態と名義を一致させることが目的です。
1. 贈与として成立させる。名義人本人に口座の存在を伝え、通帳・証書・印鑑・キャッシュカードを本人に渡し、暗証番号も本人が決めます。年110万円を超える年があれば、名義人が翌年2月1日〜3月15日に贈与税の申告・納税をします。裁決評釈も、書面によらない贈与は外形上分かりにくいため、贈与税の申告書等を保存しておくことが重要だと指摘しています。贈与契約書を毎回作り、振込で記録を残すと、①〜⑤の要素がすべて名義人側にそろいます。
2. 自分の財産として戻す。贈与するつもりがなかった、あるいは名義人が管理できる状態にない(幼い孫など)なら、自分名義の口座に戻して自分の財産として管理します。名義預金を元の持ち主に戻す行為は、そもそも贈与が無かったのですから、名義人からの贈与にはなりません。相続時には自分の財産として申告するだけで、隠す必要も、隠せる余地もなくなります。
3. 生前に使い切る前提で、目的別に自分名義で分ける。教育費や生活費の援助は「必要な都度、直接充てる」形で渡せば非課税です。将来渡す予定の資金を先にプールしたいなら、自分名義のまま金融機関や満期を分けて預けるのが、税務上も預金保険上も最も無理のない方法です。満期を分散させる考え方は定期預金のラダリングの記事で解説しています。
なお、相続が起きたあとの話ですが、名義預金と認定された定期預金は遺産分割の対象にも戻ります。「相続人◯◯が上記以外の全財産を取得する」といった遺産分割協議書の包括条項があっても、裁決は「個別に記載のない相当高額な財産は、特別な事情がない限り含まれない」と解釈しました。名義人が「自分のものだから」と使ってしまうと、他の相続人との間で分割協議のやり直しが必要になることもあります。相続で口座が凍結されたときの払戻し制度とあわせて、定期預金の扱いは相続人全員で確認しておくのが安全です。
名義預金が見つかると何が起きるか——申告漏れと重加算税
名義預金は、亡くなった人の名義の口座だけを申告した場合に、税務調査で最も見つかりやすい財産です。金融機関には過去の取引記録が残っており、被相続人の口座から家族名義の口座への資金移動は追跡できます。見つかれば相続税の追徴に加えて過少申告加算税、隠していたと判断されれば重加算税(35%)の対象になります。冒頭の裁決では、妻が名義預金を相続財産と認識しながら税理士に告げず、調査でも「生前に贈与されたもの」と根拠のない説明を続けたことが、隠ぺい行為に当たると判断されました。
相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除があり(国税庁 タックスアンサー No.4152 相続税の計算)、名義預金を含めても控除内に収まる家庭では相続税は生じません。それでも、名義預金を整理しておく意味はあります。相続人の間で「誰の預金か」を争う余地をなくし、預金保険の保護枠を正しく把握し、利息の受取人を明確にする——どれも定期預金を安全に使うための基本だからです。
家族名義の定期預金についてよくある疑問
Q. 妻が専業主婦で、私の給与から妻名義の定期預金に毎月移しています。これも名義預金ですか?
A. 原資が夫の収入で、夫が管理しているなら、夫の相続時に夫の財産と判断される可能性が高い預金です。夫婦間でも贈与は成立し得ますが、年110万円を超えれば贈与税の対象になり、生活費として渡した分を貯めた場合も「必要な都度直接充てる」要件を外れます。妻自身の収入や、結婚前からの財産を原資にした分は妻の財産として区別できるよう、口座を分けておくと整理しやすくなります。
Q. 孫名義の定期預金を作ったものの、孫はまだ小学生です。贈与を成立させる方法はありますか?
A. 未成年者への贈与は親権者(孫の親)が代わって受諾すれば成立します。贈与契約書に親権者が署名し、通帳・印鑑は親権者が孫のために管理し、贈与者である祖父母の手元には置かない形にします。祖父母が通帳を持ち続けると、贈与の履行が終わっていないと見られます。
Q. 20年前に親が私名義で作った定期預金があります。もう時効ではないのですか?
A. 贈与が成立していなければ、その預金は今も親の財産であり、時効の問題は生じません。20年前に親から通帳・印鑑を受け取り、自分で管理・使用してきた実態があれば、20年前に贈与が履行されたと考えられ、その贈与税の申告義務は時効で消滅しています。どちらに当たるかは、当時から誰が管理してきたかの事実で決まります。
Q. 名義預金を親の口座に戻すと、今度は私から親への贈与になりませんか?
A. なりません。名義預金は最初から親の財産なので、親の口座へ戻すのは名義を実態に合わせる行為であり、財産の移転ではありません。ただし、戻す際は「名義預金の解消」であることが分かるよう、振込の記録と経緯のメモを残しておくと、後の説明が容易になります。
本記事は2026年9月9日時点で国税庁のタックスアンサー・誤りやすい事例集・税務大学校の裁決評釈に基づいて作成しています。個別の事案の判断は事実関係によって異なるため、金額が大きい場合や判断に迷う場合は、税務署または税理士にご相談ください。