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認知症になると預金は下ろせない?家族の手続きと全銀協の考え方

認知症と診断されたからといって、その日に預金口座が使えなくなるわけではありません。銀行が取引を止めるのは「預金者本人の意思が確認できない」と判断したときで、その後も家族が何もできなくなるわけではなく、全国銀行協会(全銀協)が2021年2月にまとめた考え方では、医療費・介護費のように本人の利益が明らかな支払いなら、代理権のない家族の依頼にも応じうると整理されています。ただしそれは「極めて限定的な対応」で、対象も普通預金からの直接払いが中心です。定期預金を中途解約してまとまった額を動かすような場面では、いまも成年後見制度が原則になります。元気なうちに代理人を届け出ておけば、その原則の外側で家族が取引を続けられる道があり、その仕組みと使い分けを、全銀協・法務省・各行公式を2026年9月13日に確認した内容で整理します。

目次

口座が止まる引き金は「診断名」ではなく「本人の意思が確認できないこと」

全銀協の「金融取引の代理等に関する考え方(公表版)」は、出発点を「預金は本人の資産であり、払い出すには預金者本人の意思確認が必要になるため、家族であっても払い出すことはできない」という一文に置いています。ここから2つのことが分かります。ひとつは、家族だから引き出せる、という前提がそもそも銀行にはないこと。もうひとつは、止める基準が病名ではなく「意思確認ができるかどうか」だということです。同じ文書は、本人に認知判断能力がある場合(取引の有効性が確保できる場合)は通常取引を行う、と明記しています。認知症の診断を受けていても、窓口で自分の意思をはっきり示せる段階なら、取引は本人名義で続きます。

実務で口座が止まるのは、窓口やATMでの様子から銀行が本人の判断能力に疑いを持ったとき、あるいは家族が「本人は認知症で手続きできない」と申し出たときです。診断書を銀行に提出する義務はありませんし、提出したから自動的に止まる仕組みでもありません。一方で、いったん「意思確認ができない」と判断されると、その口座では本人取引も家族の申し出も原則どおりには通らなくなります。この状態が一般に「口座凍結」と呼ばれています。

規模を押さえておくと、厚生労働省の研究班による推計では2022年の認知症高齢者は443.2万人、2025年は471.6万人、2040年には584.2万人に達すると見込まれています(厚生労働省「認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計」)。これに対して、法定後見(後見・保佐・補助)の利用者は2025年12月末時点で合計約25.7万人(後見18万828人・保佐5万8,162人・補助1万8,078人。最高裁判所「成年後見関係事件の概況」を法務省資料が引用)にとどまります。認知症の人の預金の大半は、後見人ではなく本人か家族が実質的に扱っているということです。全銀協が「考え方」をまとめた背景も、まさにこのギャップにあります。

認知症高齢者は厚生労働省研究班の2025年推計(471.6万人)。法定後見の利用者は2025年12月末時点(後見18万828人・保佐5万8,162人・補助1万8,078人=最高裁判所「成年後見関係事件の概況」を法務省資料が引用)。

全銀協は「本人の判断能力」と「代理権」の組み合わせで5つの場面に分けた

2021年の考え方は、預金者本人に認知判断能力があるか、取引する人に代理権があるかで、銀行の対応を5つに整理しています。家族がどの場面にいるかを当てはめると、窓口で何を求められるかが見えてきます。

場面本人の判断能力/代理権銀行の基本的な対応(全銀協の考え方)
(1) 通常取引本人に判断能力あり本人と通常どおり取引する。認知症の診断があっても、意思を示せるならここに入る
(2) 判断能力が低下した本人との取引本人の判断能力が低下家族に成年後見制度の利用を促すのが一般的。手続き完了までの間にやむを得ず取引する場合は、本人のための費用であることを確認する
(3) 法定代理成年後見人等が選任済み法的な裏付けのある代理権者として、後見人等であることを確認のうえ取引する
(4) 任意代理本人が家族等へ代理権を付与し、銀行に届出済み届出のある任意代理人と取引できる。本人の判断能力が落ちたあとも、この届出が生きる
(5) 無権代理本人の判断能力が低下し、代理権も後見人もない「極めて限定的な対応」。医療費等の支払いなど本人の利益に適合することが明らかな場合に限り、依頼に応じることが考えられる

この表で見落とされがちなのが(4)です。本人が元気なうちに家族を代理人として銀行に届け出ておけば、判断能力が落ちたあとも銀行はその代理人と取引できる、と全銀協は整理しました。三菱UFJ銀行やみずほ銀行の「代理人を予約する」サービス(後述)は、この(4)を商品にしたものです。逆に、何も備えないまま判断能力が低下すると(5)に落ち、家族は「限定的な対応」の枠の中でしか動けなくなります。なお全銀協は、この考え方は会員各行の参考であり一律の対応を求めるものではない、とも明記しています。同じ事情でも銀行によって結論が違うことがあるのは、この位置づけによるものです。

代理権のない家族が頼めるのは「本人のための支払いを、請求先へ直接」まで

(5)の無権代理で銀行が応じる条件を、全銀協は具体的に示しています。本人が判断能力を失っていることは、面談や診断書、担当医からの聞き取りのほか、診断書がなくても複数の行員による面談や医療・介護費のエビデンス確認で確かめる。そのうえで、判断能力を失う前なら本人が自分で払っていたはずの医療費・施設入居費・生活費など、本人の利益に適合することが明らかな支払いに限って依頼に応じる、という筋道です。家族が自由に引き出せるようになる、という話ではありません。

2022年5月に全銀協が追加でまとめた「不測の事態における預金の払出しに関する考え方」は、突然の病気や事故で本人が意識不明になった場面を想定した文書ですが、無権代理の判断ポイントをより細かく書いており、認知症の場面を理解するうえでも参考になります。そこでは、対象になる預金はまず「解約等を要せずに払い出せる普通預金」、資金使途は医療費や施設入居費など本人のために必要なことが明らかなもの、金額と回数に上限を設け、本人の口座から費用請求者へ直接払うのを基本とする、と整理されています。あわせて、この払出しはあくまで限定的な対応で、成年後見制度や各行の代理人制度への引き継ぎを案内する、とも書かれています。

定期預金の預金者にとって重要なのはこの「普通預金が中心」という点です。定期預金は払い出しに解約という契約の変更を伴うため、代理権のない家族の依頼で銀行が動く範囲には入りにくい。生活費が普通預金に残っている間は限定的な対応で回せても、それが尽きて定期預金しか残っていない、という状態になると、成年後見の申立てを避けにくくなります。定期預金にまとまった資金を置いている人ほど、判断能力があるうちの備えが効く、と言い換えられます。

成年後見は「原則」であり続ける——ただし2028年末までに制度そのものが変わる

現行の成年後見制度は、家庭裁判所が選任した人が本人を支援する法定後見(判断能力の程度に応じて後見・保佐・補助の3類型)と、本人が判断能力のあるうちに公正証書で契約しておく任意後見の2本立てです。銀行は、判断能力が低下した本人の取引ではこの制度の利用を促すのが一般的で、後見人等が選任されたあとは、それ以外の家族からの払出し依頼には応じないのが基本、と全銀協の考え方にも書かれています。家族が「限定的な対応」で場をつないだあとの正規ルートは、いまも成年後見です。

ここで押さえておきたい最新の動きがあります。2026年6月17日、成年後見制度を見直す「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が成立し、6月24日に公布されました法務省「民法等の一部を改正する法律(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」)。改正法は、後見・保佐の類型を廃止して補助の制度に一元化し、本人に必要な行為だけ代理権や同意権を付ける形に変えます。利用の必要がなくなったときに制度の利用を終えられるようになる点、補助人を選ぶときに本人の意見を最初に考慮する点、任意後見については家庭裁判所が監督で足りると認めれば任意後見監督人を選ばずに済む場合を認める点なども含まれています。いまの後見は「一度始めると判断能力が回復しない限りやめられない」「遺産分割のためだけに使いたくても包括的な代理権が付く」といった重さが利用の足かせになっており、改正はそこを外すものです。

ただし、成年後見制度に関する改正部分の施行は、公布日から2年6か月を超えない範囲で政令が定める日とされており、2026年9月時点ではまだ現行の後見・保佐・補助のまま動いています。いま申し立てれば従来の制度で審判が出ますし、施行後も経過措置で利用を続けられる設計です。「制度が変わるから待つ」という判断は、その間に医療費や施設費の支払いが滞るなら見合いません。逆に、まだ差し迫っていない人にとっては、施行後の使いやすい制度を待つ選択も現実味を持ってきた、というのが現在地です。

備えは3段階——代理人カード・代理人の予約・任意後見をどう使い分けるか

判断能力があるうちにできる備えは、かかる費用と手間、そして判断能力が落ちたあとも機能するかどうかで3つに分かれます。

備えの手段できること・条件(実例)判断能力が落ちたあと
代理人カード本人の口座のキャッシュカードを家族用に1枚追加発行。みずほ銀行では配偶者・二親等以内の血族・同居親族のうち成年1名、新規発行手数料1,100円(税込・みずほマイレージクラブ会員は無料)で、ATMでの入出金などに使う(2026年3月21日現在の表示)本人取引の延長にすぎないため、銀行が本人の意思確認ができないと判断すれば口座全体と一緒に止まりうる。日常の補助向けで、認知症への備えとしては不十分
代理人の予約(予約型代理人・代理人予約サービス)元気なうちに将来の代理人を届け出ておく。三菱UFJ銀行は2021年3月22日開始、代理人は原則配偶者または二親等以内の血族、所定の診断書提出後に円預金の入出金・解約や運用商品の売却などが可能、手数料無料。みずほ銀行も同型で、代理人と一緒に来店して申込、所定の診断書提出後に取引開始、手数料無料(診断書の費用は自己負担)ここから機能する設計。全銀協の(4)任意代理に当たる。ただし申込時点で本人に認知機能低下の懸念があると申し込めない(みずほ銀行の留意事項)
任意後見契約公証役場で公正証書を作る。公証人手数料は1契約1万3,000円に、登記の収入印紙2,600円・登記嘱託手数料1,600円などが加わる(日本公証人連合会の案内)。財産管理の範囲を自分で決められ、預金以外の契約や手続きも任せられる本人の判断能力が低下したら任意後見監督人の選任を家庭裁判所に申し立て、選任された時点で効力が生じる。監督人が付くぶん継続的な費用も見込む。銀行取引に限らない包括的な備え

手数料の税表記は各行・公証役場の公式表記にそろえています。三菱UFJ銀行の内容はMUFGのニュースリリース(2021年3月8日)、みずほ銀行は代理人予約サービスの案内ページ(2026年9月3日現在の表示)で確認しました。他行にも同様の制度を設けているところがあり、名称・代理人の範囲・診断書の様式は銀行ごとに異なります。

もうひとつ、ネット銀行に定期預金を寄せている人が知っておくべき違いがあります。ドコモの銀行(旧・住信SBIネット銀行)は、よくある質問(ID:766)で家族カード・代理人カードの取り扱いはないと案内しています。SBI新生銀行も、店舗で口座名義人以外が代理人として手続きできるのは、未成年口座の法定代理人と成年後見人の届出がある場合に限られる、としています(FAQ ID:214)。店舗とオンラインの両方で相談できるSBI新生銀行でも、判断能力が落ちたあとの正規の代理経路は成年後見人という位置づけです。高金利の定期預金をネット銀行に集めるほど、判断能力を失ったときに家族が動かせる口座が少なくなる——この構造は、金利だけを見ていると気づきにくいものです。

判断材料:預金者本人と家族が、いま決めておくこと

まず預金者本人の側です。定期預金の預け先を選ぶとき、金利と預金保険の1,000万円に加えて、「その銀行に代理人を予約する仕組みがあるか」を判断軸に入れてください。生活費と医療・介護費の受け皿になる主力口座は、代理人の予約ができる銀行に1つ置き、そこに家族を届け出ておく。そのうえで、高金利を狙う定期預金は別の銀行に振り分ける、という分け方が現実的です。定期預金の期間も見直しどころで、5年・10年の長期ものに大半を置くと、判断能力を失った期間に中途解約が必要になり、中途解約利率で利息が削られるうえ、その解約自体に後見人が要る、という二重の不利になります。満期を1〜3年で分散させておけば、満期ごとに普通預金へ戻す判断を本人か代理人が挟めます。

ここで避けたいのが、「凍結が怖いから子の名義に移しておく」という対処です。本人の資金を家族名義の定期預金にすると、本人が亡くなったときに名義預金として相続財産に戻されるうえ、預金保険の名寄せでも保護の対象外になりえます。代理人の予約や任意後見は、名義を変えずに管理者だけを決める仕組みで、そこが決定的に違います。

次に家族の側です。すでに口座が止まった、あるいは止まりそうなら、順番は次のとおりです。①まず取引銀行の窓口に相談する(全銀協も2020年のリーフレットでこれを案内しています)。②本人の状態が分かる診断書の写しと、施設・病院の請求書を用意する。③引き出しではなく本人口座から請求先への直接払いを依頼する(銀行が応じやすい形)。④それと並行して成年後見の申立て準備を進める。至急の支払いが必要なら、家庭裁判所に審判前の保全処分を求める道があることも全銀協の考え方に書かれています。なお、本人が亡くなった場合は場面が変わり、遺産分割前でも一定額を単独で払い戻せる制度があります(相続で口座が凍結されたときの払戻し制度)。生前の凍結と死後の凍結で使える制度が別であることは、混同しやすい点です。

誤解として多いものを4つ挙げておきます。「認知症と診断されたら即凍結」は誤りで、基準は意思確認の可否です。「家族なら下ろせる」も誤りで、代理権のない家族に銀行が応じるのは本人の利益が明らかな支払いへの限定的な対応に限られます。「凍結されたら成年後見以外に手がない」も正確ではなく、医療・介護費の直接払いなら窓口相談で道が開くことがあります。そして「代理人カードを作ってあれば安心」も誤りで、判断能力が落ちたあとも機能するのは代理人の予約や任意後見のほうです。

認知症と預金についてよくある疑問

Q. 親が認知症と診断されました。銀行に知らせると口座は止まりますか?

A. 診断を伝えたことだけで機械的に止まる仕組みではありません。銀行が見るのは本人が取引の意思を示せるかどうかで、示せる段階なら通常取引が続きます。むしろ、判断能力があるうちに代理人の予約や代理人カードの手続きを進めるために、早めに銀行へ相談する価値があります。

Q. 本人が手続きできない状態で定期預金の満期が来ました。家族が解約して普通預金に移せますか?

A. 代理権も後見人の届出もない家族が定期預金を解約することは、全銀協の考え方でも想定の中心にありません。銀行が限定的に応じるのは普通預金からの本人のための直接払いが基本です。満期の定期預金は自動継続の設定なら次の期間に入り、解約が必要なら成年後見の申立てか、事前に届け出た代理人による手続きになります。

Q. 代理人カードで親の口座から生活費を引き出し続けても問題ありませんか?

A. 代理人カードは本人の取引を家族が手伝うための道具で、本人の意思確認ができない状態で使い続けることを前提にしていません。銀行が本人の判断能力低下を把握すれば口座ごと止まることがあり、使途を説明できる記録を残していないと、あとで他の相続人との間で問題にもなります。判断能力が落ちてきたら、代理人の予約や成年後見への切り替えを検討してください。

Q. 2026年に成年後見制度が改正されたそうですが、いま申し立てると無駄になりますか?

A. 無駄にはなりません。改正法は成立・公布済みですが、成年後見に関する部分の施行は2026年6月24日の公布から2年6か月以内に政令で定める日で、いまは現行制度で審判が出ます。施行後も経過措置で利用を続けられ、必要なら新制度への移行や終了の申立てもできる設計です。支払いが差し迫っているなら待つ理由はありません。

Q. ネット銀行の定期預金は、預金者が認知症になるとどうなりますか?

A. 預金そのものは本人の資産として残りますが、ドコモの銀行のように代理人カードの取り扱いがない銀行では、判断能力が落ちたあと家族が窓口で頼める仕組みが乏しく、成年後見人による手続きが正規の経路になります。ネット銀行に高金利の定期預金を置くなら、生活費の受け皿は代理人を予約できる銀行に別に持つ、という分け方が有効です。

まとめ——「止まる前に代理人を決める」のが唯一の先回り

預金が動かなくなる基準は診断名ではなく本人の意思確認の可否で、止まったあとも医療・介護費の直接払いなら家族の依頼に銀行が応じる余地はあります。ただしそれは普通預金中心の限定的な対応で、定期預金の解約や大口の資金移動はいまも成年後見制度が原則です。成年後見は2026年に改正法が成立し、2028年末までに補助へ一元化された使いやすい制度に変わりますが、施行までは現行のままです。判断能力があるうちにできる先回りは、主力口座を代理人の予約ができる銀行に置いて家族を届け出ること、長期の定期預金に資金を固定しすぎないこと、必要なら任意後見で包括的に備えることの3つに集約されます。各行の代理人制度の名称・条件・手数料は変わることがあるため、手続きの前に取引銀行の公式サイトや窓口でご確認ください。

参考・出典:全国銀行協会「金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方(公表版)」(2021年2月18日)全国銀行協会「不測の事態における預金の払出しに関する考え方」(2022年5月16日)全国銀行協会「預金者ご本人の意思確認ができない場合における預金の引出しに関するご案内資料の作成について」(2020年3月26日)法務省「民法等の一部を改正する法律(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」同 改正法の概要同 成年後見制度Q&A(任意後見制度)厚生労働省「認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計」MUFG「『予約型代理人』サービスの導入について」(2021年3月8日)みずほ銀行「代理人予約サービスについて」同「代理人カード」ドコモの銀行 よくあるご質問 ID:766SBI新生銀行 よくあるご質問 ID:214日本公証人連合会「任意後見契約公正証書を作成する費用」(いずれも2026年9月13日確認)

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