盗まれたキャッシュカードや、乗っ取られたネットバンキングで預金を引き出されても、多くの場合は銀行が被害額を補償します。条件は、気づいたらすぐ銀行に知らせ、警察にも届け出て、事情を説明することです。
注意が要るのは期限です。補償の対象になるのは、原則として銀行に知らせた日から30日前までの被害です。ネットバンキングでは、被害の日から30日後までに知らせないと対象外とする銀行もあります。
カードの被害は法律で、ネットバンキングの被害は銀行の自主ルールで補償の範囲が決まります。2026年10月27日に9行の規定を確認したところ、期限の数え方は銀行ごとに違いました。
法律で補償が決まっているのは、カードや通帳を使ったATMでの引き出し
偽造・盗難カード預金者保護法(2006年2月10日施行)は、偽造や盗難にあったカード・通帳を使って、ATMで引き出された預金を対象にしています。対象になるのは個人の預金者だけです。
この法律に当たらない被害もあります。ネットバンキングでの不正送金と、盗まれた通帳と印鑑による窓口での払戻しです。この2つは、全国銀行協会が2008年2月19日に申し合わせた方針に沿って、各行が規定で補償しています。
| 被害の種類 | 補償の根拠 | 本人に過失がない場合 |
|---|---|---|
| 偽造カードでのATM引き出し | 預金者保護法 第4条 | 払戻しが無効になり、預金は減らない |
| 盗難カードでのATM引き出し | 預金者保護法 第5条 | 全額を補償 |
| 盗難通帳での窓口払戻し | 全銀協の申し合わせと各行の規定 | 原則として補償 |
| ネットバンキングでの不正送金 | 全銀協の申し合わせと各行の規定 | 原則として補償 |
※法人の口座は預金者保護法の対象外です。法人向けネットバンキングは、全銀協が2014年7月に別の考え方を示しています。
盗難カードの補償は、過失の有無で全額・4分の3・0円に分かれる
偽造カードの被害は、本人の故意か、銀行に過失がなく本人に重大な過失がある場合を除いて、引き出し自体がなかったものとして扱われます。
盗難カードの被害には、補償を求めるための条件が3つあります。盗まれたと気づいたら速やかに銀行へ知らせること、銀行に事情を十分に説明すること、警察に被害を届け出たと銀行に示すことです。
条件を満たしたあとの補償額は、本人の落ち度の程度で決まります。過失があることは銀行の側が証明しなければなりません。
- 過失がない場合は全額
- 過失がある場合は4分の3
- 重大な過失がある場合は0円(暗証番号をカードに書いていた、他人にカードと暗証番号を渡したなど)
- 配偶者・二親等内の親族・同居の家族などが引き出した場合も0円
当編集部の試算では、盗難カードで100万円を引き出された場合、過失ありの判断で受け取れるのは75万円です。差の25万円は、1,000万円を年0.50%(税引前)の1年定期に預けたときの税引後利息39,843円の約6年分に当たります。
総合口座で定期預金を担保に借りられた分も、法律の対象
総合口座では、普通預金の残高が足りないとき、定期預金を担保に自動で借り入れる仕組み(当座貸越)が付いていることがあります。盗まれたカードでATMから引き出されると、定期預金の分まで借り入れられるおそれがあります。
預金者保護法は、預金を担保にしたこうした借入れも対象にしています(第5条第4項)。条件を満たせば、銀行は不正に借り入れられた分の返済を求められません。過失がある場合は、返済を求められない額が4分の3になります。
定期預金を担保にした借入れの仕組みは、定期預金の当座貸越の記事で紹介しています。
ネットバンキングの被害で補償が減る4つの例
ネットバンキングの被害も、本人に過失がなければ原則として補償されます。ただし、何が過失に当たるかは法律に定めがなく、銀行が個別に判断します。
全国銀行協会が2016年6月に示した資料では、補償が減ったり受けられなかったりする例として、次の4つを挙げています。
- 銀行が何度も具体的に注意していた手口にだまされ、IDやパスワードを入力した
- 警察や銀行を名乗る相手に、IDやパスワードを安易に答えた
- IDやパスワードを手帳やスマートフォンに記録していて、それごと盗まれた
- 身に覚えのない残高の変動に気づきながら、銀行への連絡を怠っていた間に被害が出た
自分の意思で操作して、だまされて送金した場合は不正利用に当たりません。みずほ銀行の規定も、自らの操作で不審な相手と取引した場合を補償の対象外としています(2026年9月3日現在)。
9行の補償規定で、30日の数え方は2通りあった
2026年10月27日に、個人向けネットバンキングの不正利用について、9行の公式の規定と案内を同じ項目で確認しました。
| 銀行 | 銀行へ知らせる期限 | 補償の対象になる被害 | 本人に過失があるとき |
|---|---|---|---|
| 三菱UFJ銀行 | 気づいたら速やかに(盗用から2年を過ぎた通知は対象外) | 通知日の30日前の日以降 | 4分の3 |
| 三井住友銀行 | 気づいたら速やかに(盗取から2年を過ぎた通知は対象外) | 通知日の30日前の日以降 | 一部を補てんすることがある(割合の定めなし) |
| みずほ銀行 | 被害発生日の30日後まで | 規定に別の定めなし | 過失がないことが補償の条件 |
| ゆうちょ銀行 | 被害日の30日後まで | 案内に記載なし | 減額する場合がある |
| 楽天銀行 | 被害日から30日後まで | 案内に記載なし | 一部減額の場合がある |
| PayPay銀行 | 不正使用の翌日から31日以降の通知は対象外 | 通知を受理した日の30日前の日以降 | 減額・対象外の場合がある |
| auじぶん銀行 | 速やかに(不正取引から2年を過ぎた通知は対象外) | 通知日の30日前の日以降 | 4分の3 |
| ドコモSMTBネット銀行(旧・住信SBIネット銀行) | 払戻しの翌日から31日以降の通知は対象外 | 通知日の30日前の日以降 | 4分の3 |
| SBI新生銀行 | 気づいたら速やかに | 不正利用に気づいた日の50日前の日以降 | 減額する場合がある |
※当編集部調べ(各行の公式サイトの規定・案内、2026年10月27日確認)。いずれも個人の口座が対象。警察への届出か相談も、各行が補償の前提としています。
数え方は2通りでした。被害の日から数えて30日以内に知らせる方法と、知らせた日からさかのぼって30日分を補償する方法です。どちらでも、知らせるのが遅れた分だけ補償される期間は短くなります。
9行のうち、30日より長い期間を示していたのはSBI新生銀行だけでした。同行は盗難カードの被害についても、通知日の120日前の日以降を補償すると案内しています。
10月1日の被害を11月5日に知らせると、補償の外になる
たとえば、10月1日にネットバンキングで不正に送金され、気づいて銀行に連絡したのが11月5日だったとします。
通知日から30日前までを補償する銀行では、対象は10月6日以降の被害です。10月1日の分は入りません。被害の日から30日後までに知らせる銀行でも、期限は10月31日で、すでに過ぎています。
カードの盗難でも、法律が補償の対象にするのは、通知日の30日前の日以降の引き出しです。入院していて知らせられなかったなど、やむを得ない事情を証明すれば、その期間は延びます。盗まれた日から2年を過ぎた通知は、法律の対象外です。
定期預金と普通預金を同じ口座で管理していて、ふだんは残高を見ない人ほど、気づくまでに時間がかかります。入出金明細を2週間に1回ほど見ていれば、被害から30日の期限内に銀行へ連絡できます。
盗難カードの補償は、処理が決まった件数の約6割
金融庁の「預貯金の不正送金被害等の発生状況(令和8年3月末)」には、盗難カードの補償の結果も載っています。2005年2月から2026年3月までに処理方針が決まった153,116件のうち、補償されたのは88,772件(58.0%)でした。
補償されなかった理由で多いのは、盗難でなく紛失による被害(15,878件)、重大な過失(13,964件)、本人による補償請求の取り下げなど(12,476件)です。カードを落とした場合は、盗まれた場合と同じ扱いになりません。
| 被害の種類 | 処理方針が決まった件数 | 補償した件数 | 補償の割合 |
|---|---|---|---|
| 偽造キャッシュカード | 7,556件 | 7,243件 | 95.9% |
| 盗難キャッシュカード | 153,116件 | 88,772件 | 58.0% |
| 盗難通帳 | 3,453件 | 1,437件 | 41.6% |
| インターネットバンキング | 35,259件 | 26,409件 | 74.9% |
※金融庁「預貯金の不正送金被害等の発生状況(令和8年3月末)について」(2026年6月30日公表)。集計開始から2026年3月までの累計(ネットバンキングと盗難カードは2005年2月から)。2026年4月末までに報告のあった件数。
ネットバンキングの被害は、2024年度に11,896件と、2022年度の2,006件から大きく増えました。2025年度は3,946件で、平均の被害額は360万円です。
銀行の破綻に備える預金保険とは、別の仕組み
預金保険は、銀行が破綻したときに元本1,000万円までと利息を保護する制度です。不正に引き出された預金を戻す制度ではありません。
不正払戻しの補償は、預金保険の1,000万円とは関係なく、各行の規定で範囲が決まります。法人の口座や一部の金融機関では、規定で補償の上限額を設けていることがあります。破綻時の保護の範囲は、預金保険制度(ペイオフ)の記事にあります。
家族が引き出した場合は、法律でも、確認した9行のうち8行の規定でも補償の対象外です。親の預金を家族が管理する場合の手続きは、認知症と預金の家族の手続きの記事で紹介しています。
被害に気づいた日にすること
補償の条件を満たすため、被害に気づいたら次の順に進めてください。
- 通帳やカードの裏面、銀行の公式サイトに載っている窓口に電話し、口座とネットバンキングを止めてもらう。メールやSMSに書かれた番号には電話しない。
- 最寄りの警察署に被害を届け出るか相談し、受理番号などを控える。
- いつ、どこで、何が起きたかを時系列でメモし、銀行の調査に説明する。
- 銀行から届く補償の書類を、期限までに提出する。
補償の規定は記載時点のものです。取引している銀行の最新の規定は、各行の公式の案内でご確認ください。